イギリスのスーパーの食品売り場を見れば歴然なのですが、チーズの種類が非常に豊富です。
イギリス産のチーズはおよそ700~1000種類以上とされており、近年では伝統的なチェダーやスティルトンに加えて、職人による新しい品種も増えているようです。地域ごとに異なる製法が特徴で、その種類の多さはフランス(約550種類)を上回るとされています。
イギリスのチーズは用途が広く、サンドイッチやジャケットポテト、チーズオントーストなど日常的な料理によく使われています。また、サラダやスープ、フルーツと組み合わせたり、クリームチーズはケーキやディップに、裂けるタイプのチーズは子どものスナックとしても親しまれています。日常から特別な場面までさまざまな食卓に活用されています。
イギリスでは、ほとんどの家庭が何らかのチーズを購入しているという調査結果もあり、チーズはイギリスの食卓を支える必需品といえます。1人当たりの年間消費量は約10キロにのぼるそうです。
イギリスのスーパーでは、フランス、イタリア、スペインといった近隣の国々のチーズも多く並んでいます。ここでは、イギリスのスーパーで購入できる一般的なチーズの種類を記してみます。
知っておきたい!イギリスのチーズの種類

イギリスでは、いくつかのチーズが「PDO(Protected Designation of Origin)」に登録されており、特定の地域で伝統的な方法に従って製造されています。たとえば、West Country Farmhouse Cheddar(サマセット、ドーセット、デヴォン、コーンウォール地区)、Blue Stilton(ダービーシャー、レスターシャー、ノッティンガムシャー)など。
チェダー(Cheddar)

イギリスでチーズといえば、まず「チェダー」を思い浮かべる人が多いはずです。サマセット州のチェダー村が発祥とされており、チェダーチーズはイギリスで最も一般的かつ人気のあるチーズ。サンドイッチや料理用として広く使われており、スーパーではさまざまなブランドや熟成度のものが手に入ります。
しっかりとしたコクとほのかな酸味が特徴で、熟成期間によって「マイルド」から「シャープ」まで風味が変化します。熟成期間の短い「マイルド」は柔らかく穏やかな風味で、長く熟成された「エクストラマチュア」や「ヴィンテージ」は濃厚でシャープな味わいになります。
どの強さでも食べやすく、たいていの料理に合います。ピザにのせたり、細かくおろしてパスタにふりかけたり、パイやトースト、ジャケットポテトに合わせても美味しいです。ハーブ入りなどのフレーバータイプもあり、用途や好みに応じて選ぶことができます。
多くのスーパーでは、自社ブランドから伝統的な職人製のものまで幅広く取り扱われています。林檎の木のチップでスモーク(燻製)した「アップルウッド(Applewood)」も美味しいです。
イギリス南部のチェダー地方では、チェダーチーズ工場のツアーに参加することもできます。
スティルトン(Stilton)

スティルトンはイギリスを代表するブルーチーズで、「ブルー・スティルトン」としてPDO(原産地名称保護)に登録されています。クリーミーでコクがあり、青カビの風味が強すぎずバランスが良いため、食べやすいのが特徴です。
スティルトンには「ブルー・スティルトン」と「ホワイト・スティルトン」の2種類があります。ブルー・スティルトンは青カビが特徴で、熟成による豊かな風味が魅力です。一方、ホワイト・スティルトンはカビを加えずに作られ、あっさりとした味わいで、クランベリーやアプリコットなどのフルーツを加えたタイプも人気があります。どちらもイギリス国内で広く親しまれています。
ダービーシャー、レスターシャー、ノッティンガムシャーの限られた地域で伝統的な製法により作られています。サラダのトッピングにしたり、クラッカーやセロリにのせたり、スープに使ったりと、多くのメニューで活用されています。スティルトンチーズにはポートワインやシェリー酒のような甘口のワインがよく合いますが、もちろん赤ワインや白ワインとも相性が良いです。
「Blue Stilton」PDO登録の有名なブルーチーズ、「Stichelton」は非PDOのブルーチーズ、Shropshire BlueやOxford Blueも人気ですがPDO未登録とのことです。
ウェンズリーデール(Wensleydale)

ウェンズリーデールチーズは、イングランド北部のヨークシャー地方にあるウェンズリーデール渓谷が発祥のチーズ。
伝統的にはセミハードタイプのフレッシュチーズで、ほろほろとした食感と穏やかなミルクの甘みが特徴です。マチュア・ウェンズリーデール(Mature Wensleydale)、エクストラ・マチュア・ウェンズリーデール(Extra Mature Wensleydale)、青カビを加えたブルー・ウェンズリーデール(Blue Wensleydale)、オーク・スモークド・ウェンズリーデール(Oak Smoked Wensleydale)などがあります。
クランベリーやブルーベリーなどのドライフルーツを加えたバリエーションも人気で、クリーミーながらもさっぱりとした味わいで、サンドイッチやチーズボード、軽食に適しています。
「Chicken Run(チキンラン)」や「Shaun the Sheep(ひつじのショーン)」を手掛けるアードマン・アニメーションズの「Wallace & Gromit(ウォレスとグルミット)」のエピソードには、ウェンズリーデールチーズがたびたび登場し、主人公ウォレスはウェンズリーデールを「お気に入り」として公言しています。1995年に放送されたときには、チーズの売上が急増しブランド存続の危機を救ったそうです。その後、ウェンズリーデール・クリーマリー社は「Wallace & Gromit Wensleydale」として公式ライセンス商品を展開し、キャラクターをデザインに取り入れた商品なども販売しています。

チェシャ―(Cheshire)

チェシャ―チーズはチェシャー州発祥の伝統的なチーズで、イギリス最古のチーズの一つとされています。
主に牛乳から作られるセミハードタイプで、風味はクリーミーでマイルドから濃厚まで熟成度によって変わります。
色は伝統的にやや黄色みがかったものが多いですが白いタイプも存在します。料理やサンドイッチに使われるほか、そのまま食べても美味しいです。
ロンドン・シティ地区の歴史的なパブ「Ye Olde Cheshire Cheese」は、1666年のロンドン大火の後に開店した当時、国民に最も愛されていたチーズの名前にちなんで名付けられました。また、大火の後に開店した最初の新しい建物でもあり、多くの文豪や著名人が訪れたことで知られ、歴史的価値の高い名所です。


ランカシャー(Lancashire)

ランカシャーチーズはイングランド北西部ランカシャー州発祥で、牛乳から作られるセミハードタイプのチーズです。18世紀から作られており、長い歴史を持つイギリスを代表する伝統的なチーズの一つとされています。
伝統的には、熟成期間の異なる「Creamy(クリーミー)」と「Tasty(テイスティ)」に加え、1950年代に登場した「Crumbly(クラムブリー)」の3種類があります。名産とされる「Beacon Fell Traditional Lancashire Cheese」はPDOで保護されており、伝統的な製法で作られています。
レッドレスター(Red Leicester)

レッドレスターはイングランド中部、レスターシャー州発祥のセミハードチーズです。
オレンジ色はアナトーという天然色素を加えたもので、やわらかくほろほろとした食感とナッツのような甘みが特徴です。熟成期間は通常6〜12ヶ月で、若いものはマイルドな味わい、長く熟成されたものは深みのある風味とコクが楽しめます。
レッドレスターは17世紀にレスターシャー州で余った牛乳から生まれたチーズで、当初は「Leicestershire Cheese(レスターシャー・チーズ)」と呼ばれていました。18世紀にはアナトーでオレンジ色に染められ、チェダーチーズとの差別化が図られました。しかし、第二次世界大戦中は着色が禁止され、一時的に「ホワイトレスター」に。戦後にアナトーの使用が再開され、現在の「Red Leicester(レッド・レスター)」として定着しました。
「レッドレスターはチェダーチーズに色をつけただけのもの」ではなく、発祥地や風味に明確な違いがあります。チェダーはサマセット州発祥で、しっかりとしたコクと酸味が特徴です。一方、レッドレスターはナッツのような甘みとやわらかな食感を持っています。ただし、使い方はチェダーとよく似ており、さまざまな料理に活用されています。
レッドレスターはチェダーよりも少し甘みがあり色合いが鮮やかなため、料理に彩りを加えたいときにもよく選ばれます。風味がやわらかくクセが少ないので、チーズが苦手な人にも取り入れやすいチーズといわれています。
ダブル・グロースター(Double Gloucester)

「ダブル・グロースター(Double Gloucester)」は、イングランド南西部グロスターシャー州で16世紀から作られている伝統的なセミハードチーズ。
グロスター牛の乳を使用して製造され、「アナトー」と呼ばれる天然の色素を加えることでオレンジ色に染められます。この色は見た目の特徴であり、チーズの色合いを安定させるために使われているそうです。
滑らかな食感とナッツのような風味、濃厚な味わいとしっかりとした食感が特徴で、サンドイッチやチーズボード、料理のトッピングなど、さまざまな用途に適しています。国内外のスーパーやチーズ専門店で広く流通しています。
テレビ番組「イッテQ」でも紹介された「チーズ転がし祭り(Cooper’s Hill Cheese-Rolling)」は、グロスターシャー州ブルックワースにある「Cooper’s Hill」で毎年春のバンクホリデー(5月下旬)に開催されます。この祭りでは約3〜4kgのダブル・グロースターチーズを転がし、参加者がそれを追いかけて丘を駆け下ります。勾配1:2、長さ約180メートルの急斜面を転げ落ちるというユニークな光景で知られ、600年以上の歴史をもつ伝統行事です。
シングル・グロースター(Single Gloucester)
「シングル・グロースター(Single Gloucester)」もグロスターシャー地方で16世紀から作られている伝統的なセミハードチーズで、PDO(原産地名称保護)に認定されています。
ダブル・グロースターよりも水分が多く、軽やかでほろほろとした食感と、やわらかくマイルドな味わいが特徴です。熟成期間は約2〜3ヶ月で、自然な淡黄色をしており、アナトーは加えられていません。
かつては地元で主に消費されていたものの、現在では製造数が少なく希少価値の高いチーズとのこと。一般的なスーパーマーケットではほとんど見かけず、一部のオンライン専門店で購入できる程度。なお、水分が多くやわらかい性質のため、チーズ転がし祭りには不向きとされています。
ダブルもシングルも用途はチェダーとほぼ同じですが、シングルは軽め、ダブルは濃厚で加熱料理ではその風味を存分に発揮します。
ブリー(Brie)、カマンベール(Camembert)

イギリス産のブリーやカマンベールもあり、どちらも主要なスーパーマーケットで販売されていますが、ブリーの方が種類が多いようです。
イギリス産ブリー(「Somerset Brie」「Cornish Brie」など)は地元ブランドとして確立しており、日常使いに適しています。特に「Somerset Brie(サマセット・ブリー)」は主要スーパーの自社ブランドでも販売されています。ブリーはクリーミーでクセが少なく、日常のスナックやパーティー用途で人気があります。
高級スーパー(「Marks & Spencer」「Waitrose」)では、イギリス産ブリーがチーズボードやクリスマスセットに含まれたりします。
一方、イギリス産カマンベール(例:「Somerset Camembert」)も販売されていますが、ブリーほど品揃えは多くないようです。フランス産のAOP認証品(「Camembert de Normandie」)が本場志向の消費者や高級市場で好まれることから、地元産のシェアが相対的に小さいとのことです。
ゴートチーズ(Goat Cheese)
イギリス産のゴートチーズ(山羊乳チーズ)は、ソフトでクリーミーなものからハードタイプまで多様です。主に南西部のコーンウォールやデヴォンで生産されています。
クリーミーでさっぱりとした味わいが特徴で、サンドイッチやチーズボード、料理のアクセントとして人気があります。生産数は約50~100種類もあるそうで、フランス産よりも小規模ながら高品質です。イギリス産のゴートチーズは、フランスやイタリアの伝統的なチーズに匹敵する品質を誇り、国内外で需要が高まっているそうです。
おわりに
もしチーズがお好きなら、イギリスでさまざまな種類を試してみるのがおすすめです。
特にクリスマスの時期には、スーパーで「チーズセレクションセット」が多数販売されます。チェダーやレッドレスター、スティルトンなど定番のイギリス産チーズを中心に、クラッカーやチャツネ、チーズナイフ、チーズボードが付属するセットが人気です。贈答用としても需要があり、豪華なパッケージのものから手頃な価格のものまで幅広く揃っています。普段は見かけない限定フレーバーも販売されます。
フォートナム&メイソンやハロッズ、ウィッタードなどの高級店でも、クリスマス限定のチーズハンパーが販売されます。熟成チェダーやブルー・スティルトン、トリュフ入りチーズなど上質な品が揃い、ワインなども含まれます。